ロッテの「幼児向けガム」の発売に隠された意図とは?

2010.07.13

営業・マーケティング

ロッテの「幼児向けガム」の発売に隠された意図とは?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

 圧倒的なシェアを確保している業界のリーダー企業は、その権勢を保つためには何をしなければならないのか。例えば多くの人のポケットやカバンに1つぐらい忍び込んでいる「ガム」を例に考えてみよう。

 <ロッテ、子ども向けボールガム「キシリトールガム ハローキッズ〈グレープソーダ〉〈サワーストロベリー〉」を発売>(7月9日マイライフ手帳ニュース)
 http://www.mylifenote.net/002/lott_14.html

 ロッテは今度は「ガムがかめるか噛めないか」の幼児を狙った新商品を発売した。
 <「すくすく育て!かむ力」「乳歯から大切に」をコンセプトに、キシリトールを50%以上配合(甘味料中)したという。ガムを中空構造にし、噛む力がまだ弱い小さな子どもでも安心して噛んでもらえるようなボールタイプのチューインガムとなっている>という。
 いくら何でもちょっとターゲットが小さすぎないか?と思うかもしれないが、これには重要なワケがあるのだ。

 筆者は大学の講義中に受講生に挙手させてみた。「ガムを良く購入する」は全体の2割弱。「どちらともいえない」が4割、「ほとんど購入しない」が4割強という結果だった。理由を聞くと学生は「あごが疲れるから」と答えた。
 口臭予防、虫歯予防、体臭予防など、様々な機能性を高めたガムであるが、根源的な「噛む」という行為が忌避されるようになって、購入者はどんどん高齢化する。しかし、一定以上の年齢になると歯の治療跡や義歯の使用によってガムの使用がストップするという。

 「ガム市場」におけるリーダー企業、ロッテは6割ほどのシェアを握っているという。クープマンの目標値でいうところの、「安定的トップシェア」の41.7%を軽く上回っている。そうした場合、最も恐ろしいのは市場自体が縮小することである。事実、ガム市場はボトル入りのガムが大ヒットした2004年を境に縮小に転じている。
 リーダー企業に必要なことは、そうした市場の変化を敏感に感じ取って手を打つことだ。ロッテは市場縮小の原因である「若者のガム離れ」に対応すべく、2008年に「柔らかな噛み心地」の「Fit’s」を発売。佐々木希、佐藤健の「フィッツダンス」のCMも当り未曾有の大ヒットを飛ばすことに成功した。そして、さらに市場環境を改善するために展開しているのが今回の「キシリトールガム ハローキッズ」なのだ。

 ガムのヘビーユーザー層である中高年にとって、ガムの想い出、子どもの頃良く買った商品は何だろうか。「マルカワ」ブランドの丸川製菓の「オレンジマーブルガム」を思い出さないだろうか。四角い小箱に丸いガムが4粒入って5円。さらに当りが出ればもう1箱もらえる。オレンジマーブルガムは1959年に発売開始され、1974年に10円に値上げされ、現在は6粒20円という価格になっている。同じマルカワ製の「フィリックスガム」も74年に登場して同じく駄菓子屋の定番商品であった。
 小遣い銭が少ない幼少時代、口寂しさを比較的長時間紛らわすことができる10円ガムは貴重だった。しかし、今日、その主たる販路である駄菓子屋が滅亡の危機に瀕している。マルカワのガムは一部のコンビニエンスストアでも販売されているが、圧倒的に主要顧客層である子どもたちとの接点が減少しているのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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