「失敗する」権利

2009.11.27

組織・人材

「失敗する」権利

小倉 広

失敗は成功のもと とはよく言ったもので、人は体験から学びや気付きをより深く得ることができます。そして失敗するという経験は最も人が成長できるチャンスです。 「大切なお客様にご迷惑をかけるわけには…」 それはもっともです。ですからその都度判断をリーダーはじめ上の人間がしていくのです。

「では、スクリーンの映像をご覧下さい」

ここは、当社が主催する経営者セミナーの会場です。講話もいよいよクライマッ
クス。最大の見せ場である『顧客社長からの感謝の手紙』
を映像で映し出す場面がやってきました。

真っ暗な会場の中、固唾をのんで映像を見守る五十人の社長たち。心に沁みるオ
ルゴールの音色と共に、いよいよ感動の手紙がスクリーンに映し出されようとし
ています。

しかし…。あろうことか映像の文字が小さ過ぎて後ろの客席からは読めない。大
変お粗末なことに当社スタッフはお客様の視点に立ったリハーサルができていな
かったのです。

後半のパートで講演するために会場でスタンバイしていた私は悔しさに歯ぎしり
する思いでした。せっかく遠方からご参加いただいたお客様に申し訳ない。プロ
としてなんと恥ずかしいことだろう、と…。

所変わってお客様への訪問先。導入を決断しきれず悩んでいるある社長のため
に、当社コンサルタントがパソコンでセミナーの映像をお見せすることにしまし
た。

しかし…。今度は音声が聞こえない。外付けのスピーカーを用意しなかったため
に、パソコン本体の内蔵スピーカーだけでは音が小さ過ぎたのです。

私は、それぞれのシーンにおいて、指示命令型で有無を言わさず予めチェックを
することもできました。しかし、あえてそれをしませんでした。

セミナー会場においては、当日朝早くからスタッフたちが会場に入りミーティン
グや打ち合わせを繰り返していた。担当者だけでなく、部長たちが自ら陣頭指揮
を執り走り回っている姿を見て、口出しはすまい、と決めたのです。

また、お客様への訪問に同行していたのは当社でトップクラスのコンサルタント。
常に全力でぶつかる彼の姿勢はお客様から絶大な信頼を得ていました。そんな彼
へ対して細かな持ち物の指示はしてはいけない。そう決意した上で彼の言う通り
現地へ向かうことにしました。

しかし、結果は惨憺たるもの。どちらのケースでも、一番大切なお客様へ対して
ご迷惑をおかけすることとなってしまいました。

もしも、私が事前に、事細かにチェックし指示命令すれば、トラブルは防げたか
もしれません。大切なお客様を優先するならばそれが正解です。

しかし、セミナーや顧客訪問に関しては明確な担当者と責任者が存在します。そ
して彼らには自分の担当業務に責任を持つ『権利』と『義務』がある。それをト
ップが侵してはいけません。彼らには、『失敗する権利』と『責任を持つ権利』
があるのです。

部下に失敗させるべきか、失敗を未然に防ぐべきか。絶対的な正解はありませ
ん。その時々、会社の状態やお客様との関係性により答えは変わります。

しかし、ただ一つ言えることは、私自身が失敗を通じて成長してきたというこ
と。そして私には失敗させてくれた上司がいた、ということです。

この出来事を通して、私はこれからも上司として、その都度悩み判断し続けよう
と決意を新たにしたのでした。

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