地味にあなたを待ち受ける「駅ナカ自販機」の戦略

2009.07.26

営業・マーケティング

地味にあなたを待ち受ける「駅ナカ自販機」の戦略

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

駅ナカにある飲料の自動販売機。それはただ置いてあるのではない。ただ静かに設置してあるのではなく、いつ、誰に、どう買わせるか?商売のキモともいうべき設計がきちんとなされているのである。

JR東日本管内の自動販売機にポスターが掲出されて、キャンペーンが展開されている。「ホテルのソトアサ オフィスのセキアサ」。
ニュースリリースによると<自販機を利用する多くのお客さまが通勤・通学時間帯であることから、“朝の過ごしかた”を今回のプレゼントとして提案>する意図だという。景品は「メトロポリタンホテルズ共通朝食券」やオフィスの自席で朝食を摂る時に飲料の保温・保冷に使える<アイス・ホット両対応USBカップクーラー&ウォーマー>。
何気ないキャンペーンだが、このキャンペーンテーマは駅ナカ自販機戦略の本質を明確に表わしている。

駅ナカ自販機の運営会社はJR東日本ウォータービジネス。JR東日本の株主総会で40歳代子会社社長が続々登場して話題になったが、その一人、田村修氏(41歳)が二代目社長を務めることとなった企業である。社長としては二代目であるが田村氏は2006年8月のウォータービジネス社立ち上げ時点から携わってきた立役者である。JR東日本管内ではなじみ深いミネラルウォーターの『名水「大清水(おおしみず)」』を『谷川連峰の天然水「From AQUA(フロムアクア)」』にリニューアルして、「大清水」の3倍・年120万ケースの販売に成長させた立役者でもある。

JR東日本ウォータービジネスの最大の特徴は、今回のキャンペーン主旨にもあるように「自販機を利用する多くのお客さまが通勤・通学時間帯であること」という、ターゲットと購買機会を明確にしている点にある。駅のホームや構内という恵まれた顧客接点をおさえている故にできる戦略ではあるが、その選択と集中は見事である。
TPOで考えれば、Time(時間)は通勤・通学の途中、朝である。Place(場所)とoccasion(場面)は電車に乗る前、乗り換え時に喉を潤す。または、駅を出る前に職場や学校で飲む物を購入する。
STPで考えれば、セグメンテーション(S)は通勤・通学をする人、ターゲット(T)は毎日その自販機の前を通りかかる人、ポジショニング(P)は忙しい時間に手間なく最適な商品を購入できる。

自販機で取り扱っている商品は、そのTPO・STPを整合させる提案型商品となっており、それによって、よりターゲットを拡大してポジショニングを明確にする効果を発揮している。
同社がこだわるのは「朝」だ。
各飲料メーカーとコラボレーションして、専用商品を開発し、自販機で販売している。
伊藤園と共同企画して誕生した緑茶「朝の茶事」。カゴメとは野菜ジュース「朝にすっきり野菜と果実」。日本コカ・コーラとはコーヒー「ジョージアキックオフ 」。アサヒ飲料ともコーヒーの「朝のカフェオレ」を作った。全て「朝」がテーマで、一貫してポジショニングを強化している。
とりわけ、2007年5月に初の共同企画商品として投入された「朝の茶事」は価格面でも特徴を出している。価格140円。自販機で販売されている他の飲料より10円安い。コンビニエンスストアに立ち寄り、期間限定などで割引されている商品をわざわざ購入するのでない限り、わずか10円であるが、確実に安い。事実、その理由から通勤・通学途上にこの商品を買うという人も多い。囲い込み策として効果を上げているわけである。

自販機はその存在自体が売り場でもあるが、同社はその売り場の魅力を高める努力も昨年秋から展開している。JR東日本管内に1万台設置されているという自販機を全て「acure」ブランドに統一している。デザインを統一し視認性を高め、さらに自販機の横にスリムな空容器投入口も設置した。ペットボトル、缶、ビンと3つに分かれた投入口は使いやすく、ホームや駅構内でさっと飲んでスッと捨てるという人の利便性を向上させているのだ。

なにげな~く置かれている駅の自販機。地味ながら、そこには様々な設計や工夫がなされているのである。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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