モディリアー二に学ぶ「人の本質を見抜く力」

2009.05.18

仕事術

モディリアー二に学ぶ「人の本質を見抜く力」

井上 卓哉

アメデオ・モディリアー二の肖像画を通して、人の本質を見抜くために必要な観点を考えます。

アメデオ・モディリアー二は、エコール・ド・パリの代表的な画家として世界に知られている人です。最も馴染みが深いのは、晩年に身近な人々を描いた肖像画だと思いますが、彼の肖像画では、モデルは皆、アースカラーの背景にひっそりと佇むように描かれています。どのモデルも面長で首が長く極端ななで肩で、少し首をかしげているように見えます。そして、何よりも彼独自の肖像画スタイルを特徴づけるのが無表情な顔にあるアーモンド形の瞳のない目でしょう。構図が奇抜でもなく、色調も鮮やかではなく、一見すると地味な人物画です。にもかかわらず、モディリアー二の独自のスタイルで描かれたモデルは、圧倒的な存在感を放ち、見る人を惹きつけます。それは、彼の鋭い人物観察眼のフィルターによって抽出された人の本質が描きだされているからといえます。当初、瞳のあった目が最終的に描かれなくなったのは、顔の表情の裏に隠れたその人の本質に目を向けたかったからではないでしょうか。目があるとついつい反応して顔に注目してしまいますが、アーモンド形の目のモデルを前にするとその人物の存在感に注意を払うことができます。この一見、没個性化とも捉えられるフィルターを使って、モディリアーニは、人の本質を観察する目を鍛え自己のスタイルを確立していったのだと思います。

彼の洞察眼に感服しつつ、我が身を振り返ると、モディリアーニの死後100年後の現代を生きる私たちの人の本質を見抜く技術は、彼のそれよりも高まっているのだろうかと疑問に感じてしまいます。技術・商品開発の進展によって、最近では携帯電話で写真や動画を誰でも気軽に撮影することができます。もちろん、レジャーで出かけた時に、美しいと感じた風景や珍しい光景を記念に撮影して思い出として保存できれば、後でもう一度見ることができ、他の人と共有する楽しみも増えます。しかし、私たちは、そうやって撮影して「取っておく」ことができることに安心して、実際のリアルな姿を観察することを忘れてはいないでしょうか。
また、数年前に『人は見た目が9割』という本がベストセラーになって以降、人生や仕事において「見た目」の重要性を説き、外見や表情をよくするテクニックを紹介する本も多数出版されています。確かに、見た目は初対面時の印象を決定づける要素であり、つまらない所で失点するよりは、外見に気を遣っておいた方がよいといえます。但し、どんなに外見を素晴らしく仕上げたところで、中身が伴わなければボロが出るのは時間の問題です。さらに、見た目重視の最大の盲点は、「見る側」になった時には、見た目で人を評価・判断してしまうと事の本質を見失うことがあるということです。

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