クライスラーの今日、日本車勢の明日?

2009.05.07

経営・マネジメント

クライスラーの今日、日本車勢の明日?

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

2009年4月30日に連邦倒産法第11章(Chapter 11)の適用を申請した、米国ビッグスリーの一角であったクライスラー。しかし、その結末はマイケル・ポーターの理論通りだったともいえるだろう。

■ポーターの基本戦略のフレームワーク
経営学者のマイケル・ポーターは企業の基本戦略を大きく3つの類型で表した。競争優位性をコストに求める「コストリーダーシップ戦略」。差別化に求める「差別化戦略」。ターゲット市場を業界全体とするのではなく狭い特定分野とする「集中戦略」。さらに、集中戦略は、特定分野の中でコストを武器に戦う「コスト集中戦略」と、差別化要因を武器に戦う「差別化集中戦略」にも分類できる。

■自動車各社の市場ポジション
今日の日本国内での自動車メーカーを例に考えるならば、間違いなくトヨタはコストリーダーである。「乾いたぞうきんを絞る」とまでいわれる徹底したコスト削減手法は他の追随を許さない。コストリーダーという存在になれるのは業界でただ1社だけである。
差別化戦略をどこと見るかは意見が分かれるかもしれないが、ホンダがよく例に挙げられる。コスト集中は、軽自動車に集中特化していた、かつてのスズキだろう。軽のラインにまでトヨタは手を出したくない。そこに集中していたのだ。差別化集中の例は少々マイナーだが、光岡自動車を知っている人ならば、理解していただけよう。独創的なボディー形状はこだわりの自動車ファンに愛され続けている。

■米国市場における各社の市場ポジション
自動車産業全体を牽引する米国市場で考えた時、基本戦略の3類型はどうなるのか。少し歴史を遡ろう。米国自動車産業の黄金期でもあった1950年代だ。
コストリーダーは1950年代に米国最大の企業となり、55年に初の10億ドル越え企業となったゼネラルモーターズ(GM)だろう。差別化戦略のポジションには、ビッグスリーの他2社が存在していた。高馬力エンジンを搭載したフルサイズといわれる大型のボディーが特長のクライスラー。フォードは50年代に最も意欲的な新型車を次々に投入した。名車サンダーバードの市場投入も55年のことだ。
ビッグスリーが戦略ポジションの違いに応じた互角の戦いを繰り広げ、他のプレイヤーは市場参入が困難な状況であった。例外的に1948年にプレストン・トマス・タッカーという起業家が、画期的な新型車を引っ提げて新たな自動車メーカーの立ち上げを試みた。それが成功していれば、「差別化集中戦略」の成功例となっていたのだが、50年代を前にその夢は潰えた。米国国内勢以外で考えれば、欧州車が差別化集中戦略のプレイヤーと考えることもできるだろう。

次のページ■1950年代の米国でのトヨタ

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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