近鉄グループの「沿線住民囲い込み」の妙

2009.02.23

経営・マネジメント

近鉄グループの「沿線住民囲い込み」の妙

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

近畿日本鉄道グループが、「“楽・元気”生活」と称して奈良県と京都府の一部で生活応援事業を展開している。その姿こそが少子高齢化が鮮明になり、「縮む」日本市場での生き残りの正しい姿を現しているといえるだろう。

<子育てタクシー、買い物商品宅配…近鉄グループの生活応援事業が人気>
http://www.business-i.jp/news/flash-page/news/200902210128a.nwc

報道では以下のような展開が伝えられている。<スーパーの近商ストアが、購入商品を宅配するサービスを提供><子供連れの人の外出をサポートするため、奈良近鉄タクシーがチャイルドシートを備えた「子育てタクシー」などを展開><近畿配送サービスも割安なミニ引越を開始>そして<現在、15社(うち近鉄グループ12社)が同事業に参入>しているという。
そして、担当者のコメントはさらに同グループが事業に注力することを示している。<近鉄経営企画部の山本寛課長は「沿線住民サービスの一環だが、グループ全社を挙げた囲い込み戦略は関西の私鉄では初めてだろう。サービスエリアの拡大も検討中」>

冒頭、筆者は”「縮む」日本市場での生き残りの正しい姿”と書いた。鉄道というインフラを基軸としたグループは、輸送対象となる乗客数の減少が経営を直撃する。もはや止める手立てが見えない日本の少子高齢化は乗客の減少、収益の低下に直結する。特に大阪府・奈良県・京都府・三重県・愛知県の2府3県にまたがり、JRをの除く日本の鉄道事業者では最長の路線網を抱える同グループには、さらにインフラ維持の負担が重くのしかかってくるのである。

鉄道会社の盛衰といえば、セオドア・レビットの名が浮かぶ。
今日のマーケティングにも強く求められる「顧客中心主義」を何と、1960年に説いたセオドア・レビットはハーバードビジネスレビューに寄せた論文「マーケティング近視眼(Marketing Myopia)」で米国の鉄道会社衰退の理由を生産・製品偏重主義にあると指摘した。
米国の鉄道会社は自動車やトラック、航空機の台頭によって衰退の一途を辿った。レビットは「自社の事業を”鉄道事業”ではなく、”輸送事業”と考えるべきだった」と説く。経営者が「鉄道」という製品を中心とした発想をし、「移動する手段」であるという、顧客から見た、顧客中心の発想ができていなかったがために、顧客ニーズの変化に気づかず、対応遅れたことにあると。

しかし、日本における鉄道会社は別の進化を遂げた。狭い国土といった地理的要因からではない。近代私鉄のビジネスモデルを作った、阪急電鉄の創始者、小林 一三は阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道の創立に参画し、「乗客は電車が創造する」として、土地・住宅分譲、温泉、動物園、映画館、歌劇場、プロ野球リーグ、百貨店と徹底した沿線開発を推し進めて乗客を「創造」した。小林 一三の「我々は鉄道会社ではなく、沿線地域を発展させ、人々の生活を豊かにする会社である」という言葉はセオドア・レビットが指摘した、顧客中心の正しい鉄道経営の姿が明確に現れている。そして、そのビジネスモデルが、日本の各私鉄グループの経営モデルとなっているのだ。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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