原材料の高騰による食料品の値上げラッシュ。消費生活を直撃するその値上げも、気付かぬうちに静かに進行している場合もある。
ちょっと変わった記事がasahi.comに掲載されていた。
<ちくわ笛奏者、「値上げ」困った 穴広がり音程に狂い>
http://www.asahi.com/national/update/0817/OSK200808170001.html
<音の変化に気づいたのは昨年1月ごろ>と言うのは、<ディナーショーやイベントなど年約300回の演奏をこなし、全国を飛び回る>という、プロ(!)のちくわ笛奏者。<以前よりも高音が出るちくわが増えたため、注意して観察すると、全体の長さが短くなっていた。中には、穴の直径が大きくなって音程が変わったり、ちくわが軟らかくなって半音変わったりしたものも>と、ただ単に食卓に並べて食べてしまうだけでは気付かぬ「実質値上げ」の影響を受けているのだ。
この実質値上げは食品業界では常套である「量目調整」という手法。製品の見た目やパッケージと価格はそのままに、消費者が気付かぬうちに内容量が減少しているのだ。
原材料の値上がりをそのまま価格に転嫁すると、やはり売れ行きに影響する。それを避けるために内容量を減らし、価格を据え置く。場合によっては価格を下げる。
ちょっと考えれば気付きそうなものだが、実際には消費者は気付かないのだ。例えば、ウィンナーソーセージの定番・日本ハムのシャウエッセン。内容量を減らした実質値上げをしたが、店頭価格277円から271円と、見かけ上6円の値下げをした結果、売り上げが9%上昇した。(過去記事:http://kmo.air-nifty.com/kanamori_marketing_office/2008/06/post_a7d5.html)
ウィンナーソーセージの多くは2個パックでそれなりにボリューム感を出した販売手法がとられており、しかもパッケージには保存性を高めるため窒素ガスが充填されている。手に取った時、内容量の変化には変化は気付きにくい。
パッケージのしかたは異なるものの、ちくわの内容量に気付く人は少ないのだが、笛にした時の変化は顕著だったということだ。
食品メーカーは、なぜ「量目調整」という手段に走るのかを考えてみよう。
企業が価格を設定する時には、いわゆる「3C分析」のと同じ要素を考慮する。即ち、「Company(自社)」「Competitor(競合)」「Customer(顧客)」だ。
自社内では、原価(コスト)を積み上げ、それにいくら利益を乗せようかという観点で考える。昨今は原価高騰で利益がなかなか乗せられない状況だ。実際にはさっさと値上げしたい。しかし、競合を考えると、うっかり値上げをすれば顧客はそこに流れるのが必定。我慢比べとなる。さらに顧客の要素では、その商品に対していくらまでなら払ってもらえるかという観点が重要だが、食品は販売価格の上下が販売量に大きく影響する、「価格弾力性が高い」製品の代表である。また、その食品でなくとも他のものを食べて間に合わせるという代替品も多い。故に、うっかりと値上げはできない。
以上のような背景で、見た目は価格据え置き。もしくは値下げ。実質値上げという量目調整が行われるのである。
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2015.07.10
2015.07.24
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。